さびしいときは、父さんの、
お留守の部屋で、本棚の、
御本の背の金文字を、
じっと眺めて立ってるの。
ときにゃ、こっそり背のびして、
重たい御本をぬき出して、
人形のように、抱っこして、
明るいお縁へ出てゆくの。
なかは横文字ばかしなの、
カナはひとつもないけれど、
もようみたいで、きれいなの。
それに、ふしぎな香がするの。
お指なめなめ、つぎつぎに、
しろい、頁をくりながら、
そこにかかれたお噺を、
つぎからつぎへとこさえるの。
-
御本/なのはないろ
-
御本/こんあい
御本
「金子みすゞ 童謡全集」(JULA 出版局)
〈デザイン解説〉
幼いみすゞさんは、お父さんの振り仮名もない難しい本を模様のようだ、と表現しています。
後に詩人となる原点のような気がします。美しい装丁の本を並べ、デザインしました。